『小さな建築』をめぐる千夜一夜〜「老いをくらす」編
象設計集団の建築家・富田玲子さんの出版を記念して行なわれた第2回目のシンポジウムがあった。著書は『小さな建築』、今回のテーマは「老いをくらす」。
「老いて暮らす」のではなく、「老いをくらす」なのだ。それはきっと「老い」をポジティブに捉えていることを表しているのだろう。周囲とどのように関わり、繋がっていくのか、そしてここまで生きて来た「自分」とその時代を語り伝える、そんな暮らしの場としての建築はどうなのか?
ある「老人ホーム」の建築プランを例にして、富田さんの話は続く。介護の方法、個人のプライバシーと共同生活、社会との結びつきは?子供たちと老人のコミュニケーションなど、様々な事例の発表があった。
今回の語り手は、社会学者の上野千鶴子さん(東京大学大学院人文社会系研究科教授、「おひとりさまの老後」など著書多数)、文化人類学者の片倉もとこさん(国立民族博物館名誉教授、「アラビア・ノート」「イスラームの日常生活」など、遊牧民、イスラム文化の第一人者)。
上野さんは、「高齢者の住まい〜どこでケアを受けるか?」のご自身のプレゼンテーションを行ない、高齢者問題をするどく指摘。高齢者施設は「出口のない家」と言う視点から、全国の高齢者施設の調査結果などとても興味深いおはなしであった。
片倉さんは、「花は若いときだけでない」「老化してできなくなることを憂うな」「できる・できないは個性の違いなのだ」など、端的な表現で「老い」のこと「老い」の周辺のこと、などとても印象に残った。
もうひとつ、面白いお話があった。「ゆとろぎ」と言う造語である。これは、約20年前に、片倉さん自身が考えて造られた言葉。「ゆとろぎ=ゆとり+くつろぎ−りくつ」。ゆったりとリラックスし、しばし理屈を排除して得られる境地を表している。これは、偶然にも象設計集団が建築設計した温泉施設「かんなべ湯の森・ゆとろぎ」(兵庫県豊岡市日高町)の名と同じなのだ。こちらは13年前に市民公募で付けた名前なのだが、元祖は、やはり片倉さんなのだろう。このお話を、シンポジウム後の食事会の場で、片倉さんに説明をさせていただき、元祖の方の快い理解が得られた。市民としてどこか「ホッとした」気分になった。近日中に「ゆとろぎ」と題した片倉さんの新刊がでるそうだ。
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