『小さな建築』をめぐる千夜一夜〜「子供の居場所」編
このブログでもご紹介した『小さな建築』富田玲子・著(みすず書房)の出版を記念してシンポジウムが企画された。題して《『小さな建築』をめぐる千夜一夜》。会場は、東京デザインセンター・ガレリアホール(東京・品川区東五反田)
『小さな建築』は、建築・設計の「象設計集団」の創設メンバーである富田玲子さんの生い立ち、建築に対する想い、富田さん(象設計集団)の代表的な建築事例を元に、そのアプローチが書かれている。我が家もほんの少し紹介されていることもあり、シンポジウムに興味を持って参加した。
このシンポジウムは3つのキーワードに基づいて3回開催される。今回はその第1回目「子供の居場所」と言うテーマだ。
スライドを壁に映しながら、語る富田玲子さん。象設計集団の建築には「7つの原則」があるが、その中の、「場所−ここはどこ?」「住居(学校)とは何だろう?」「五感に訴える」「自然に親しむ」「あいまいもこ」などのキーワードで富田さん(象設計集団)が設計した小学校、中学校を紹介。
どの学校も生き生きした子供達の表情が印象的だ。空間、素材、自然と触れることがいかに重要かが分かる。
続いて、佐藤学氏(教育学者)のお話。佐藤氏は、世界28カ国の学校、日本国内も500以上の学校を実地見学され、教育の最前線の現場から教育のあり方を提言されている。
佐藤氏は、原風景としての学校建築を、無機的空間(無味乾燥、没個性)、権力空間(閉鎖性、排他性)と説明。これからの学校建築に対しては、「棲まい、憩い、交わる機能」、「子供と教師の活動の広がりと深まりが仕掛けられている」、「教室空間の柔軟性」、「地域共同体のセンターとしての位置づけ」などが重要であるとの指摘があった。
特に印象に残ったのは、アメリカ・ボストン郊外にあるShady Hill School。森に囲まれ、学年ごとにビレッジとして校舎が点在している。その校舎は、子供のサイズに合わせたミニサイズになっているのだそうだ。
さらに、生徒と先生が「聴き合う関係」が大切であること。これは、人と人の関係すべてに言えることだと心に刻みたい。評価の高い教師に、「何を大切にしているか?」と訪ねると、「聴くこと」と答えた教師が一番多かったという。
これは、谷川俊太郎・作の「もこ もこもこ」と言う絵本。なんと、谷川俊太郎さん自身による朗読で鑑賞することができた。学生時代に大学のキャンパスで谷川俊太郎さんの講演会を聴いた時の感動が再び蘇った。あの時は鉄腕アトムの作詞がテーマだった。
「学校がきらい」だった谷川さんが、依頼を受けてたくさんの校歌を作詞したお話で会場は笑いに包まれる。「幼児性」と「老い」、「意味」以前の存在、「宇宙人になりたい」など、谷川さんのお話にどんどん引き込まれる。
大学時代に聴いた時もそうだった。「さわやかな気持ちでいる自分」に気づく。谷川俊太郎さんと一緒に居るだけでワクワクする。素敵な人である。
後半の40分は3人による座談。谷川さんと富田さんとは、家が近所で杉並区の同じ小学校、中学校。道端で遊ぶ幼い富田さん、その脇を少年・谷川さんがよく歩いていたそうだ。
建築家と詩人と教育学者が語る「子供の居場所」とは。何だろう?私はコミュニケーションの大切さを感じ取った。
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