台風23号('04年10月) 被災からの復興体験(その1)
※ある冊子への原稿依頼を受けて書いた体験レポートです。
2004年10月21日午前7時。私は豊岡市日高町岩中地区にある「岩中工場」に自動車で向かった。昨晩(10月20日)の大雨による増水で工場が浸水した可能性があったからだ。「可能性」と思ったのは、周囲の状況を把握すると「浸水した」のは間違いないのだが、心のどこかに「信じられない」「信じたくない」と言う気持ちが強かったのだろう。岩中工場の手前30mぐらいのところで、道路は泥の堆積でこれ以上、車で進めない。
車を降りて歩いて工場敷地内に入る。まずは一番手前の事務所から。「なんだデスクもパソコンもそのままだ」「誰かがデスクを濡れないように上に上げようとしたのかな?」なんてありもしないことを連想した。まだ、一体何が起きたのか頭が働かない。しかし、とんでもない事態に気付くのにそれから数十秒も掛からなかった。
壁の時計を見ると針盤に水が溜まっている。針は8時54分を差している。昨晩9時前後に増水のピークを迎えたのが判る。しかも、ゴミの跡をみると、あと10cmで事務所の天井である。そこで、改めて、工場が3mに及ぶ浸水があったことを認識する。
工場内をチェックする。言葉が出ない。製品も仕掛品も機械も運搬具も、みんなグチャグチャである。木製ハンガーの工場であるから、仕掛品やその他水に浮くものは、浸水とともに構内を漂流し、引き際に散乱したのであろう。天井からぶら下がる照明器具に、水が運んだ草木やゴミが引っかかっている。3m沈没した事実を生々しく語っている。
大型クレーンで吊り上げない限り、移動するのが難しい集塵装置が倒れている。水の浮力で一旦浮き、引き際に片方が何かに引っかかり、倒れたのであろう。「浸水の凄まじさ」を実感してきたので、何が起きたのかの想像が働くようになる。いずれにしても、もの凄い破壊力だ。
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